#1 - 2026-2-26 17:55
小笠原ユリ (希望治安官大教育家屠魔勇者阴阳师拱火孤儿消停点 ...)
「(前略)」
アリス        「ねえねえ、聞いてる?」
琴湊        「……何?」
アリス        「もう、琴湊ってば私の話、全然気にしてないでしょ」
テラスの高脚椅子(ハイチェア)に座ってパンをかじりながら、少し思い返してみる。だが、彼女が何を言ったのか、さっぱり思い出せなかった。
というより、思いつきで言葉を並べ、前後の脈絡がすぐに途切れる彼女の話し方には、とうの昔に慣れっこになっていた。
琴湊        「それで、結局何の話? まだ私が興味を持っているうちに、まとめて話しちゃって」
アリス        「夢の話だよ。昨日言ってたじゃない。思い出せないけど、また同じような夢を見るかもって」
琴湊        「え? 昨日? 昨日……そんなこと言ったっけ?」
チーズを頬張っている彼女を疑わしげに見つめる。デタラメを言っているのか、それとも自分が本当に物忘れが激しいのか、少し不安になる。
アリス        「そうだよ。私、結構気になってるんだから」
琴湊        「…………」
食事を楽しみながら思考を巡らせる。誰かに指摘されなければ、そんなこと忘れてしまっていたかもしれない。
琴湊        「……もうあの夢は見なくなった。でも、あの感覚だけは覚えてる。他人の人生を、ガラス越し、あるいは雨越しに眺めているような……どこか現実味のない感じ」
アリス        「ふーん? それってどんな人生なの?」
琴湊        「どんなって……うーん、一言二言でまとめられるようなものじゃないかな。そうだ、時間」
アリス        「ん、時間がどうしたの?」
琴湊        「なんていうか、ズレてる感じ? 夢の中の時間感覚って、明らかに現実とは違うでしょ。なぜかその違和感だけが、すごく鮮明だったんだ」
琴湊        「あっちの世界で長い長い時間が過ぎても、こっちの世界では一晩しか経っていない。でも現実に帰ってくると、その一晩がどれくらいの長さだったのかも、曖昧になっていく」
琴湊        「私はただずっと見守っていて……加速しようが減速しようが、あるいは静止しようが、時間はいつも『過去・現在・未来』という形で区別できるんだって気づいたの」
私たちは黙り込んだ。正確には、私が話すのをやめた。アリスがパンを食べ終え、ハンカチで口元を綺麗に拭うまで、沈黙が流れる。
アリス        「……それだけ?」
琴湊        「うん。これ以上は思い出せないから」
アリス        「なんだか退屈。物語にしたとしても、これじゃ売れないよ」
琴湊        「……どういう意味?」
アリス        「つまり、みんな面白い物語が好きなの。ストーリーもなくて、ただ勿体ぶってるだけのものなんて、誰も見向きもしないよ!」
琴湊        「夢のことを聞いたのは、そっちじゃない」
琴湊        「はぁ、もういい。私のバカだった。てっきり心配してくれてるのかと思ったのに」
アリス        「怒った?」
彼女は慌てる様子もなく空いた皿を片付け、ついでに私の分もまとめてくれた。その仕草は、私には何の信仰心も感じられない「贖罪」のように見えた。
琴湊        「別に。これくらいで怒ったりしない」
アリス        「ねえ琴湊、午後から一緒に授業サボらない?」
琴湊        「どこへ?」
彼女は少し間を置いた。
アリス        「……えっ、もしかして一度もサボったことないの?」
琴湊        「サボろうなんて考えたこともなかった。もしサボるなら、何をするつもり?」
アリス        「違うよ。何かをするためにサボるんじゃなくて、授業に出たくないからサボるの」
琴湊        「うーん、わかった。……講師にメールを入れたほうがいいのかな……」
アリス        「ダメ! ああもう、琴湊って本当にお堅いんだから。呆れちゃう」
琴湊        「……なんであなたが怒ってるの?」
彼女は唇を噛み、机を叩いて立ち上がると、片手を腰に当て、身を乗り出して私に告げた。
アリス        「今すぐ行くよ。……イエスか、ノーか?」
おそらく、人生で初めての「エスケープ」。特別な緊張もなければ、罪悪感もない。
私が彼女の提案に乗ったのは、きっと誰かに「一緒にサボろう」と誘われたのが初めてだったからだろう。
サボることが正しくない行為だと分かっていても、今まで破ったことのない秩序を頑なに守るつもりもなかった。ただ、突然の予定変更に少し戸惑っているだけだ。
琴湊        「どこへ行くの?」
アリス        「世界の果て!」
琴湊        「それなら、まずは大きな船を探さないとね」
アリス        「……琴湊が言うと、冗談に聞こえないから怖いわ」
琴湊        「冗談に決まってるでしょ」
彼女に手を引かれ、小走りでアーチをくぐり、歩道を抜ける。そして、街角の街灯の下で足を止めた。
少し冷たい空気が鼻腔を通って肺を満たし、激しく上下していた胸が次第に落ち着いていく。
やがて、空に教会の鐘の音が響き渡った。もう今さら戻っても間に合わないことを、私は悟った。
アリス        「これで、共犯者だね」
琴湊        「……さっき考えてたんだけど、アリス、出席日数は大丈夫なの? あんまりサボると卒業できなくなるよ」
アリス        「大丈夫! 私、次の『留年した先輩』になるって決めてるから! 組織は安心してください!」
彼女は爪先立ちで敬礼し、それから力尽きたように手を振った。
アリス        「ああもう、そんな話、今しないでよ。興ざめしちゃう」
琴湊        「本当に大丈夫? 私は皆勤だけど、単位のほうは……正直、自信がない」
アリス        「もう、ムカつく! 私とデートしてるのに、他のことばっかり考えて」
琴湊        「デ、デート? そんなこと、さっきは言ってなかったじゃない」
アリス        「言ったよ。はぁ……やっぱり聞いてなかったんだ」
彼女は肩をすくめ、手のひらをひらひらと振った。まるで、判決を下す前に私を許してくれたかのような仕草だ。
アリス        「でも、琴湊みたいな一途なタイプなら、一度私の女になっちゃえば、次からは何をする時も私を最優先にしてくれるんだろうな」
琴湊        「……煙に巻こうとしないで」
アリス        「ははっ、可愛い! 私の可愛さにメロメロになっちゃった?」
琴湊        「……本当にあなたの出席日数が心配なだけ」
アリス        「うーん、なんていうか、実は卒業できるかどうかあんまり気にしてないんだよね。でも、一回サボったくらいで卒業させない学校があるなら、ちょっと横暴すぎない?」
アリス        「だから心配ないって。先のことはその時考えればいい。今日を無駄にするほうが、よっぽど損だよ」
琴湊        「それで、何をするつもり?」
アリス        「いい質問! ええと……そうだなぁ、今からホテルに行くのはまだ早いかな?」
アリス        「あいたっ! ……冗談だよ、冗談」
容赦なく彼女の額をデコピンする。別に激怒したわけではない。ただ、時間を無駄にしたくないだけだ。
アリス        「思いついた! 琴湊は真面目すぎるから、今日は私が徹底的に不良少女に改造してあげる! 覚悟しなさい!」
琴湊        「悪役みたいなセリフ」
アリス        「じゃあ……首を洗って待ってなさい!」
琴湊        「…………」
彼女が何を表現したいのか、もう分からなくなってきた。もし決闘を申し込まれているのなら、私は負けるだろう。運動は得意ではないから。
だが、もし彼女がタバコや酒、タトゥーや自傷を教えようとしているのだとしたら……私はもっと恐ろしい。
幸いにも、街をしばらく歩いた後、彼女が意気揚々と私を連れ込んだのは、一軒のセレクトショップだった。
アリス        「わあ! セクシー」
琴湊        「確かに。普段着るようなタイプじゃないね」
マネキンに飾られたバックレスドレスの周りを一周し、彼女は品定めするように見つめてから、私を振り返った。
アリス        「ダメだ。だらしなく着こなしちゃいそう」
琴湊        「賛同したいような、したくないような」
アリス        「はあ? 私の意見に文句があるならはっきり言いなよ。あー……なるほど。琴湊もそういうところ、気にするんだ」
彼女は両手を丸く形作り、胸の前で大袈裟に動かした。
琴湊        「……あなたこそ。随分と自信があるみたいだけど」
アリス        「当たり前でしょ。前にも道でスカウトに『お嬢さん、可愛いね、スタイルもいいし、芸能界に興味ない?』って言われたんだから」
アリス        「私が『どうしてスタイルが良いって分かるの?』って聞いたら、スカウトはそういう能力があるんだって。そうじゃないと務まらないってさ」
そう言って彼女は得意げに胸を張る。
実は、私にも似たような直感があった。彼女は歩く時に上半身が少し後ろに反り、肩のラインが落ちているような感覚がある。おそらく、長期的な「重量物」を支えていることによる習慣だろう。
だから、彼女の自慢話がデタラメではないことを、私は少し信じていた。
琴湊        「それで、引き受けたの?」
アリス        「まさか。全部私の作り話だもん」
彼女は堂々と嘘を認めただけでなく、私に向かって舌を出してべーっとした。私は「騙された」という反応をするべきなのだろうか。
アリス        「あ、ここ、すみませーん! これ、もう少し小さいサイズありますか? そうそう、試着したくて。あと、他の色もあります?」
琴湊        「今、試着するの?」
アリス        「ウィンドウショッピングで試着しないなら、ネット通販と変わらないじゃん」
琴湊        「……まあ、そうかもね」
店員と最低限のコミュニケーションしか取れない私とは違い、アリスは慣れた様子で店員と談笑している。
服のブランドや素材、デザインだけでなく、ドラマや俳優の話まで。アリスが試着室に入るまで、かなりの時間がかかった。
アリス        「おっふ! セクシー!」
試着室のカーテンが開くと、彼女はマリリン・モンローのようなポーズを決めていた。惜しむらくは、裾をなびかせる風がないことだ。
アリス        「どう? 嘘じゃなかったでしょ?」
大きいかと言われれば、確かに大きい。
しかも、ちょうどいい大きさだ。肩幅との比率、腰からヒップにかけての曲線が、非常に絶妙なバランスを保っている。
アリス        「これ、琴湊に見せるために着たんだからね」
琴湊        「自分が着たかっただけでしょ」
アリス        「こんな高い服、普段着る機会ないもん。琴湊も試してみる?」
琴湊        「私はいいよ。こういうのは似合わないし……」
アリス        「誰がこの服を試せって言った! かつてある偉人が言ったんだよ。『カップが大きければ球は小さく見え、カップが小さければ球は大きく見える』ってね」
琴湊        「……全く意味がわからない」
アリス        「つまり、自分に合うものが必ずあるってこと!」
琴湊        「さっき言ったことと明らかに意味が違ってるじゃない」
彼女はしゃっくりのような笑い声を上げながら私に近づき、私の手を掴んで服が並ぶ通路へと走り出した。
その勢いに押され、断るタイミングを逃してしまった。彼女は自分の着替えも後回しにして、私の服を選ぼうと躍起になっている。私は彼女の問いに誠実に答えるしかなかった。
琴湊        「ダメ。ちょっと派手すぎる」
アリス        「これでも派手? じゃあ、これは?」
琴湊        「うーん……もう少し普通の、ないかな」
アリス        「琴湊って、自分のスタイルに自信がなさすぎじゃない?」
琴湊        「そんなことないよ。普段はこういうのとか、あのスタイルを選ぶし。カジュアルなほうが実用的だし」
アリス        「信じられない! それじゃいつもの琴湊じゃない。ああもう、センスが悪いって言ってるわけじゃないけど、固定されすぎじゃない? 少しは大胆になってみなよ」
私は躊躇した。彼女が手に取った服は、彼女が着ているものに比べれば大胆とは言えなかったが、私の好みではないにせよ許容範囲ではあった。
アリス        「ほらほら、早く試着して!」
琴湊        「わかった、わかったから。押さないで」
最後に誰かと買い物に来たのがいつだったか思い出せないが、カーテン越しに着替えるのは間違いなく初めてだった。
フック式のカーテンは厚手で透ける心配はなさそうだが、それでも誰かが入ってくるのではないかという不安が拭えない。
アリス        「終わった?」
琴湊        「そんなに早く終わるわけないでしょ」
アリス        「その服、着るだけならすぐじゃん。あ、サイズが合わなかったらすぐ言ってね」
慎重に服を着替え、鏡の前で腕を上げて脇のあたりを整える。問題ないことを確認して、カーテンを開けた。
アリス        「遅ーい。はい、次はこれ」
琴湊        「……これは何?」
アリス        「上だけ替えても意味ないでしょ。早く穿いて!」
こうなったら、従うしかない。
だが結局、アリスは満足しなかったようで、また別のセットを渡されて着替えを命じられた。
試着した姿を鏡で見て、私自身は悪くないと思っていたのだが、意見を述べる暇もなかった。
これはもはや、試着室という陣地での攻防戦だ。彼女の波状攻撃を前に、私は応戦する以外に道はなかった。
やがて、私は一つの問題に気づいた。というか、私とアリスの大きな違いに。
私は、まだ購入していない服を着て店内を自由に歩き回ることができない。店員が何も言わないのは分かっていても、やはり迷惑をかけたくないのだ。
琴湊        「あの……ちょっと入ってもいい? アリス」
アリス        「服、破いちゃった?」
鏡を背にして黙り込む。彼女が入ってきたら、この服のファスナーが後ろにあることを伝えようとしたのだが、彼女は先手を打って大声を上げた。
アリス        「わあ! 何この脱ぎ散らかした服の山!」
琴湊        「……わざとでしょ?」
アリス        「……ははっ、ごめんごめん。ん? 手伝ってあげる。お腹引っ込めて」
琴湊        「ずっと引っ込めてる」
アリス        「よし、できた。おおー、いい感じじゃない」
琴湊        「そうかな? なんだかふわふわしすぎてるし、リボンも多すぎる気がする」
アリス        「じゃあまだ着替える? 私はいいけど」
琴湊        「……もういい。本当にいい感じ? 肩が出すぎじゃないかな。ストラップが見えるのは、あんまり良くない気がして」
アリス        「可愛いよ! でも確かに、こういうのはチューブトップか透明なストラップのほうがいいかも。よし、決めた! 次は下着屋さんね!」
……どうやらこの服を買うことは決定事項らしい。値段を確認しなくては。
アリス        「これ全部、琴湊が脱いだ服だ。くんくん、スーハースーハー」
琴湊        「……うっとうしい」
結果として、このワンピースは最初に試着したものよりずっと大胆だが、ずっと似合っていた。
会計を済ませて次の店へ向かう。下着は着心地に直結するため、当然試着は避けられない。
個人的にチューブトップは苦手だ。摩擦が足りなくてずり落ちそうな不安があるし、内側の滑り止めで肌が荒れてしまう。
透明なストラップも……あまり好きではない。自分を騙しているような感じがするし、かえって滑りやすい。
結局、選択肢はホルターネックか、キャミソールになる。
ここで二つの難題にぶつかった。アリスは前者に猛反対した。ラインが衝突して、視覚的な平行美を壊すという理由だ。
対して私は、キャミソールでは寄せ上げる効果がほとんどないと考えた。だが、アリスに問い詰められると、私は言葉を濁して言った。
琴湊        「……ワンピース一着のために、そこまで下着にこだわるのは、ちょっとやりすぎじゃない?」
アリス        「何言ってるの。ストラップを見せたくないって言ったのは琴湊でしょ。私も賛成したんだから。ほら、もたもたしない」
彼女が目の前に差し出した二つの下着を見つめる。さっきの着替えを思い出すと、彼女を満足させない限り、いつまでも着替えさせられそうだ。
下着屋の試着室は木製のドアで鍵もかかるが、それでも下着を替えるという行為は、公共の場で全裸になっているような羞恥心を伴う。
……分かった、妥協しよう。寄せ上げることが目的ではない。結局、細い紐が何本もあり、ワンピースの色に合うキャミソールを選んだ。
見た目にはどれが下着のストラップか判別できないし、むしろこのストラップ自体が装飾の一部のように見える。
アリス        「よし! いつもの琴湊とは少し違ってきたね」
琴湊        「……少しだけ?」
アリス        「うーん……一番印象が変わるところといえば……琴湊、髪染めたことある?」
琴湊        「一度もない」
アリス        「試してみる?」
琴湊        「……派手すぎないなら」
もう何度も服を着替える必要がないのなら、これ以上に面倒なこともないだろうと考えた。
アリスは上機嫌で近くのヘアサロンへ私を連れて行った。並べられたヘアスタイルの雑誌やカラーチャートを見て、私は目眩がしそうになった。
セレクトショップや下着屋では選択肢はせいぜい十数個だったが、サロンでは一度に数百もの選択肢を突きつけられる。
美容師の問いかけにたどたどしく答える。相手が親切で忍耐強い分、自分の好みをうまく伝えられないことに申し訳なさを感じる。
結局、美容師の巧みなアドバイスに従い、インナーカラーを選んだ。これなら変化もそれほど大きくない。
アリスに気に入られないかと思ったが、意外にも彼女は絶賛してくれた。「可愛い」「今っぽい」と連呼している。
正直、少し疲れた。けれど、こうした「思いつき」の行程は、決して嫌いではなかった。
それに反してアリスは……本当に底なしの体力を持っている。
その後、私たちは靴屋、アクセサリーショップ、そしてコスメショップを巡った。
厚底のメリージェーン、紫色のカチューシャ、アイシャドウパレット、そしてリキッドアイライナーを購入した。
アリスは私と一緒にネイルをしたがった。小指に塗って見せてくれたりもした。
綺麗だとは思ったが、ピアノを弾く手は常に爪を短く切っておく必要があるし、指先の感覚に影響が出るのは困る。そう説明して断った。
アリスは少し残念そうにしていたが、私の理由を聞くと納得し、期待に満ちた様子で自分のネイルを続けていた。
再び教会の鐘が鳴った。ちょうど通りがかったセルフ写真館(プリクラのようなフォトブース)を見て、私たちは気まぐれに写真を撮ることにした。
一緒にピースサインをしようと約束したのに、彼女はカウントダウンに合わせて突然私を抱きしめてきた。
……まあ、ピースサインはしていたけれど。私の顔を挟むような形になっていた。
琴湊        「写真、ブレちゃったね」
アリス        「こっちは大丈夫。でも、琴湊の笑顔、すごく硬いよ」
琴湊        「……そうかな?」
写真館を出てすぐ、アイスクリームのワゴンの前にある円卓に座り、アイスを舐めながら写真を眺めた。
私の手元にある二枚は少しボケていたが、アリスが渡してくれた一枚ははっきりと写っていた。
アリス        「これ、いい感じ」
琴湊        「えっ? 顔がスタンプのエフェクトで隠れちゃってるじゃない」
アリス        「だって琴湊の笑い顔が変なんだもん。せっかく綺麗な顔してるのに、もったいないよ」
琴湊        「……それ、褒めてるの? それとも文句?」
アリス        「ほら、笑って!」
彼女はスマホを取り出し、私にレンズを向けた。アイスを避けてカメラを見つめ、戸惑いながらも無理に笑顔を作った。
アリス        「硬い硬い! はぁ、琴湊って絶対、風俗店で写真だけ見てスルーされるタイプだよ」
アリス        「でも実際に会ってみたら、『わあ! 隠れたナンバーワンの絶世の美女じゃん!』って驚かれるタイプ」
琴湊        「……そんなこと言われたら、余計に笑えない」
アリス        「そうだ、琴湊。生まれたばかりの子牛が、どうして餓死しちゃうか知ってる?」
琴湊        「……どうして?」
アリス        「空腹の時には、牛乳を飲んじゃいけないからだよ」
琴湊        「……ぷっ」
その瞬間、シャッターが切られた。
アリスのスマホは画質が良く、とても鮮明に撮れていた。私の笑顔も自然だった。唯一の心残りは、すぐに現像できないことくらいだ。
写真を送ってくれるよう頼む。しばらく眺めていて、自分には自撮りをする習慣がないことに気づいた。この一枚を除けば、私のスマホには自分の写真は一枚も入っていなかった。
#2 - 2026-4-17 22:45
(希望治安官大教育家屠魔勇者阴阳师拱火孤儿消停点 ...)
「(前略)」
住まいに戻る前に、誰かが先に階下で待っていた。
琴凑「あの。この前、何か忘れ物でもしましたか?直樹さん。」
直樹「いや、強いて言うなら……連絡先を聞き忘れた、ということかな。」
琴凑「それは……」
直樹「他意はないよ。えっと、これ、たまたま手に入ったんだけど、よかったら一緒に行かない?」
チケットを一枚手渡してくれた。
直樹「日程は今週末で。もし連絡が取りにくければ、会場近くの駅で落ち合えばいい。住所はここに書いてある。」
しばらく迷ってから、彼は頷いて別れを告げた。
変わった人だ。普通、チケットを一枚届けるためだけに他人の家の下まで来るだろうか。
チケットに書かれた住所は……まったく行ったことのない場所だった。軽く調べたら乗り換えが必要で、たぶん六、七駅ぐらいだった。
出演する音楽家はどれも聞いたことがない名前だったけど、紹介文を読む限り、少しは興味を引かれなくもなかった。
それより気になるのは、直樹さんがわざわざ訪ねてきたことのほうで。
……自分から、好意があるかどうか確かめるなんて聞ける話じゃない。そんな可能性を疑うこと自体、恥ずかしく思えてしまう。
惭愧、というのか。
とにかく、鈍い人間にもなりたくないし、自惚れた人間にもなりたくない。
それでも週末が来ると、意外にも何を着て出かけるか悩んでいた。
今日は天気もいい。特に予定もない。実は昨日まで約束に出かける実感がなかったのに、今日になって急にすっぽかすのは悪いと思えてきた。
この前サボった日に買ったあのワンピース、まるでこういうときのために用意したみたいだと、ふとそう思った。
気がついたら鏡の前で三回着替えていた。どれがいいか、まったく判断できなかった。
そうじゃなくて——判断力が完全に消えていた。何が日常向きで、日常の基準って何で、コンサートに行く場合の位置づけって何で、これは大げさじゃないか……
鏡の前でしゃがんで、交差した腕に顔を埋めてわざとぐずぐず引き伸ばしてから、最後は時限爆弾の導線を選ぶみたいに赤黄青のどれかを適当に取った。
後悔しても遅い、もう出てしまった、爆発したって構わない、もう何も心配しなくていい。
直樹「…………」
駅を出た瞬間、まだ心の準備もできていないのに、ベンチに座っていた直樹さんと目が合った。
直樹「……あ、ありがとう。」
琴凑「なんで最初にそれ言うんですか。」
直樹「自分でもわからない。来てくれてありがとう、ということかな。それと……その格好、すごく似合ってる。いつもと少し違う感じがして。」
琴凑「そうですか?」
直樹「褒め方が下手で申し訳ないけど、本当にそう思ってる。すごく似合ってるよ。」
琴凑「ありがとうございます。変じゃなければそれでよかったので。」
直樹「全然そんなことないよ!」
ああ、でもそんなに大げさに言われると逆に少し後悔してしまって、どう返したらいいかわからなくなる。
直樹「えっと、まだ時間があるけど、どこか寄ってく?それとも直接中で待つ?」
琴凑「直接入りましょう。」
直樹「じゃあそうしよう。そういえば、お昼はもう食べた?」
琴凑「食べました。直樹さんは?」
直樹「……うん、食べた。」
まさか一緒に食べたかったわけじゃないよね。とっさにそう思ったけど、すぐに打ち消した。
ホールの中はほとんど人がいなかった。隣同士の席に座って、何を話せばいいかわからなくて、何をすればいいかもわからなかった。
だからチケットの半券に集中して、宣伝文句と紹介文を丁寧に読んだ。
西尾……えっと、私より数歳上なだけだ。ぐっ……しまった。
直樹「どうかした?」
琴凑「いえ、何でも。」
直樹「気分が悪い?」
琴凑「……ちょっと耳鳴りがしただけです。たまにあることなので。」
直樹「そうか。」
琴凑「直樹さんはよくコンサートに来るんですか?」
直樹「ううん、実は音楽はよくわからないんだけど——この前琴凑さんの話を聞いて、興味があるかなと思って。」
琴凑「わざわざ二枚買ったんですか?」
直樹「そういうわけじゃないよ。本当に人からもらったもので、ふと琴凑さんのことが頭に浮かんで。」
琴凑「それはなんとも……」
半分冗談のつもりで言ったら、彼が心配するのをやめたのがわかったので、私も少し安心した。
見知らぬ人と二人きりで過ごすのはやっぱり少し気まずくて、特に何もすることがないときはなおさらだった。
相手に退屈させないようにできるだけ自然に振る舞いたかったけど、かといって無理に話題を作りたいわけでもなかった。
この場の空気を保つのが思ったより難しい。
演奏が始まったらずっとましになった。二人とも演奏に集中していれば、何かを話す必要も、話すべき理由もなかった。
……眠気がきた。
何度か目を閉じかけた。
でもなんとか堪えた。直樹さんに失礼だと思ったから。
このコンサートが嫌いなわけじゃない。来てよかったと言えばそれぐらいの感触はある。
演奏のレベルは文句のつけようがない。自分が少なくともあと十年は磨かないと届かないかもしれない高さだった。
スタイルは多彩で、センスも独特だったけど、音楽性としては私の好みではなかった。
たとえば、目を奪うような技巧の見せ場、それからリズムとアクセントの扱い——彼の年齢でそこを完璧にこなすのは、誰にでも簡単にできることじゃない。
でも、それだけに視覚的なインパクトが強くて、かえって目を閉じて雑音を削ぎ落としたくなった。
要するに——眠くはなった、でも耳は楽しめた。
直樹「……どうだった?ちょっと長かった?」
琴凑「個人コンサートとしてはむしろ短いほうかと。通常は休憩込みで二時間ぐらいが標準だと思うんですけど、今回は一時間でしたし。」
直樹「そっか、ちゃんと調べてこなくてごめん。」
琴凑「気にしないでください。小規模な個人コンサートだろうとは思ってたので想定内です。それに、よかったと思います。」
直樹「うん、うん。そっか、よかった。」
頷きながら、笑みを抑えきれない様子だった。
ホールの外を当てもなく歩いた。本来なら駅に向かうはずなのに、お互いに牽制し合うみたいにどこにも行けなかった。
直樹「映画でも見ない?お詫びとして。」
琴凑「だから謝らなくていいって言ったじゃないですか。……まあ、この後も特に予定はないので。近くに映画館ありますか?」
直樹「あるよ、たしか。」
スマホを出して調べてから、方向を指さして続けた。
直樹「今から行けばちょうどいくつか間に合う回があるみたいだけど、行く?」
琴凑「これも計画の一部ですか?」
直樹「えっ、嫌だった?」
琴凑「そうですね——映画のチケットは私が出しましょうか。そうしたら嫌じゃなくなります。」
正直に言えば、映画を観るというのは私にとってかなり個人的な行為だと思っている。作品の選び方も、観る環境も、そうだ。
うまくない例えをするなら、映画館で他の知らない人たちと一緒に映画を観るのは、公衆浴場に行くようなものだ。
たいていの女性は気にしないかもしれないけど、私は気になる。だから自分から進んで行くことはまずない。
それに映画館でかかる作品は限られていて、一度始まったら止められない。普段そんなに止めるわけじゃないけど、その権利を失いたくはない。
直樹「次の回まであと三十分待つことになるけど、気になる作品はある?」
琴凑「……直樹さんは?」
直樹「僕は評価点しか見ないから、琴凑さんには退屈かもしれない。」
琴凑「マニアックな趣味にそこまでこだわりがあるわけじゃないですけど。」
どこかで先入観を持たれているみたいで、説明するのも面倒だった。
公開中の作品タイトルとポスターを見比べて、ここでやっと映画の宣伝というものがこういうときに使われるんだとわかった。
琴凑「じゃあこれにしましょう。」
直樹「アニメ映画か。北米でも興行収入がよかったって聞いたよ。琴凑さんもアニメ好きなの?」
琴凑「毎クール何本か追って、気に入ったシーンを切り抜いて動画にすることもある。こんなところで琴凑さんもアニメ好きだったとは。」
琴凑「あ、いえ、その……」
実はアリスが日本のアニメを四千作品見たと言っていたのを思い出して、つい選んでしまっただけだ。
とはいえ私もアニメを見るのは見る。ただ一般的なアニメファンとは違って、アニメと映像作品の境界線をわざわざ強調したりはしない。
なぜなら、アニメにも2Dと3Dがあって、最近の実写ドラマや映画でも3DCGはどんどん使われるようになっているから。従来の2Dアニメも新しい技術を取り入れて進化している。
……ああ、だんだん、誰かと一緒に音楽を聴いたり映画を観たりする自分が嫌になってきた。
一人だったらこんなこと考えない。
ポップコーンとコーラを二つ買って、席についた。人は少なかったけど、それでも集中できそうになかった。
琴凑「…………」
結局、ごく普通の作品だった。
普通が悪いというわけじゃない。総数で考えれば、普通のレベルに達するだけでも大多数ではないし、映画館で好みの作品に出会うなんて奇跡に近い確率だと思う。
場内が明るくなって、人々が席を立っていく。スクリーンにはエンドロールが流れていて、直樹さんはすぐに立つ気配がなかった。
だから私もエンドロールの音楽をそのまま聴きながら、見知らぬ名前が下から上へ流れていくのを眺めた。
絵コンテ、原画……第二原画、春野由衣——あれ、知り合いじゃないはずだけど。
直樹「さ、行こう。」
琴凑「はい。」
直樹「あー、最後のロングカットは本当に感動したな。さすが井上って感じ。リアル寄りの芝居も光と影の使い方も、印象に残りすぎる。」
誰かは幸運だ。満足できる作品に出会えたなら、それはいいことだ。
直樹「あとで配信されたらもう一回見たい。琴凑さんは?なんかぼんやりした感じだったけど。」
琴凑「アニメのことはあまり詳しくないので、たいした感想は言えなくて。」
直樹「そう?なんとなく琴凑さんって目が肥えてそうだから、好きな作品とかある?宮崎駿とか。」
琴凑「いえ、あの人はあまり……。いくつか見たことはありますけど、好きとは言えなくて。」
直樹「具体的に教えてもらえる?なんでも、どんな話でも聞きたい。」
少し息を吸って、この話題を引き取ったことをちょっとだけ後悔した。でももうこうなった以上、開き直って話すしかない。
琴凑「……私の見方は大半の人には賛同されないと思いますけど、押井守の言葉を借りて言えば——宮崎駿は二流の監督で、子ども向けの絵本しか作れない、と。」
直樹「ははははははは。」
琴凑「……。」
直樹「ごめん、違う、押井守を引用してくるとは思わなかっただけで、ははは、他意はない。続けて。」
琴凑「偉大な人を評するのは難しいですよね。それが私が好きじゃない理由のひとつでもあって。」
琴凑「ただもっと根本的なところを言うと、彼の作品にどうしても共感できないんです。幼稚、虚偽、薄っぺら、それから自己陶酔——まあこれは私の偏見として受け取ってもらって構わないんですけど。」
琴凑「アニメーターとしての観点だけで見れば、そういった偏見的な言葉もずっと高尚に包まれてしまうので、彼は監督には向いていないし、創作者としても向いていないと感じています。」
直樹「なるほど。それもどこかの偉大な人の言葉の引用、たとえば富野監督や北野武あたり?」
琴凑「直樹さん、知ってるんですね。でも単純に誰かの意見を借りているわけじゃなくて。」
琴凑「世間の評価を取り払ったとき、たまたま私と似た視点を持つ人がいた、というだけです。宮崎駿に限らず、私はいわゆる能天気な楽観主義があまり好きじゃなくて。」
直樹「楽観主義、という分類なの?」
琴凑「うーん、完璧主義?浪漫主義?でも実際にそういった作品が心を動かしてくれるなら嫌いにはならないはずで。」
琴凑「だから正確には愚昧主義とでも言えばいいか——現実に根ざした論理をすべて捨てて、人間の複雑さを手放して、世界の矛盾と自己完結性を拒絶する。そういう作品は、世間知らずの子どもと、深く考えることが苦手な大人にしか響かない。そう思うと、好きにはなれないんです。」
直樹「なるほど。琴凑さんってかなり現実主義な人?」
琴凑「人間の生き方って単純な推論の積み重ねじゃないですし、同じ人でも議題によって左派にも右派にもなるじゃないですか。」
琴凑「あえて言えば……現実では現実寄りに考えることが多くて、フィクションの中では体験そのものを重視するかもしれない。」
琴凑「あ……」
直樹「どうした?忘れ物?」
琴凑「いえ、独り言になってしまっていて。すみません。」
気がつくと歩くペースが落ちていた。駅がどっちの方向だったかわからなくなって、来た道がどこかで別の道にすり替えられてしまったみたいだった。
直樹さんは私の歩調に合わせながら話し続けていて、私の迷いには気づいていないようだった。
直樹「僕もよくそういうことある。何かおかしなことをしてしまったみたいな感覚。でも、何も考えていないよりは、それのほうがずっとましだと思う。」
直樹「偏見も、偏好も、偏執も、人間だけが持てるものだよ。別の人からそういうものを聞かせてもらえると、幸運だなって思う。」
琴凑「そう……ですか。」
幸運、という言葉をそこに使うんだ。
直樹「気づいたらもうこんな時間か。夕食、一緒にどう?」
琴凑「計画の一部ですか?」
直樹「おいしい店を知ってて、もっと琴凑さんの話も聞きたいし。」
少し迷ったけれど、答えはもうとっくに出ていた。
直樹さんと話すことは嫌いじゃない。さっきも彼は自分の偏見、偏好、偏執について色々と話してくれた。
話題はバラバラでも、聞く側でも話す側でも、私はそれなりの役を果たせていると思う。
琴凑「……つまりですね、リュリはルイ14世の快癒を祝う楽団の演奏で指揮をしていたとき、あまりに興奮して指揮棒を自分の足の親指に叩きつけてしまったんです。」
琴凑「当時の医療水準では医師が切断を勧めたんですが、彼はどうしても首を縦に振らなくて、その二ヶ月後に敗血症で亡くなりました。」
直樹「それ以降、指揮棒があの重い木の棒から今みたいな細いものに変わったの?」
琴凑「そう言えなくもないですけど、実際には丸めた紙やヴァイオリンの弓など、色々な試みがあって……」
直樹「……本当に面白いな、初めて知った。」
琴凑「後世の人がどうしても人物を神聖化したがるフィルターのせいで、実際のところベートーヴェンの傲慢さと自尊心がどれほど強かったか——身体が不自由なまま生きることを彼は耐えられなかった。」
琴凑「遺書の中でも、自分が耳が聞こえないことを他人に説明できない、死にたい、神の導きを求めていると正直に書いています。」
琴凑「音楽家としての自己同一性への執着はリュリ以上だったかもしれない。でも違うのは、その極端なまでの矜恃と悔しさが逆に恐怖に勝ったところで。」
琴凑「契約を履行して、稼いで、英雄になるという覚悟——彼の自負心は彼を殺しかけて、同時に彼を救いもした。」
琴凑「そうそう、若い頃はナポレオンをとても崇拝していて、彼のために交響曲を書いたこともある。でもナポレオンが自ら戴冠したと知って、怒って楽譜を破り捨てたんです。」
琴凑「英雄主義に対してずっと特別な執念を持っていて、それが時期ごとに彼の人生と音楽のスタイルに影響し続けたのかもしれないですね。」
直樹「……ちょっと飲む?」
琴凑「えっ、私あまり飲めなくて。」
揺れる琥珀色のグラス。まるで液体になった水晶みたいだった。
なぜかはわからないけど、底の部分が光を集めて透き通って見えた。ああ、思い出した——レンズ効果と言うんだっけ。
直樹「白ワインだよ、度数はそんなに高くない。」
琴凑「じゃあ、少しだけ。」
直樹「……正確には、フランスの都市部では当時、主要な交通手段は私有の馬車だった。それがボードリーの登場で……三銃士は知ってる?」
琴凑「デュマの?」
直樹「そう。あの中に有名な台詞があるよね、一人はみんなのために、みんなは一人のために。ボードリーはあの本が出る前にこの理念を公共バスと名付けたんだけど。」
直樹「きっかけは彼がナント市で大衆向けの交通サービスを始めたとき、最初の車両がとある店の前に停車していて、その看板にちょうどあの標語が書かれていたから。」
琴凑「よくわからないんですけど、バスの名称とどう直接つながるんですか?」
直樹「ラテン語で『すべての人のために』って意味だから、バス——omnibusで。」
琴凑「ラテン語もわかるんですか?直樹さん。」
彼は赤い顔で黙って、それからワインをひと口飲んだ。
直樹「調べてみよう。Omni……Omnibus、あれ、これ英語と発音一緒なの?」
琴凑「試してみてください。翻訳アプリに音声機能ありますよね?」
翻訳アプリ「Omnibus.」
直樹「あ、全然違った。」
琴凑「ふふ……」
直樹「ははははは、Omnibus、覚えた、ははははは……」
琴凑「ははははは、笑いすぎた。」
翻訳アプリ「Unus pro omnibus, omnes pro uno.」
直樹「もとは十七世紀のボヘミア新教徒の反乱で、フランス語だと……」
翻訳アプリ「Un pour tous, tous pour un.」
琴凑「ちょっと待って……だめだ、ははは、まず笑い終わらせて。」
直樹「そ、そこまでじゃないと思うけど。」
結果的にしゃっくりが出るまで笑ってしまった。
あとで思い返しても、そこまでおかしくはない気がした。この前アリスの「空腹では牛乳が飲めない」というジョークで笑ったときも、今思えばそんなに面白くなかった。私の笑いのツボはずれているのだろうか。
直樹「大丈夫?どこか気分が悪い?」
琴凑「なんでもないです。ごちそうさまになってしまって。」
直樹「いいよ、どうせ無理やり誘ったんだから。」
店の入口で彼が出てくるのを待ちながら、もうそろそろお別れだと思った。今日は色々話しすぎて、少し疲れた、という以上にくたびれていた。
直樹「送ってくよ、こっち、段差に気をつけて。」
琴凑「いえ、道はあとで調べればわかるので。もう遅いですし。」
直樹「でも顔が赤いよ、せめて駅まで。」
思わず顔を手で覆ったけど、手も熱い気がするので、あまりよくわからなかった。
今日はそんなに飲んでいないはずなのに、自分が今どのくらい酔っているかも判断できなかった。
琴凑「……ありがとうございます、直樹さん。」
直樹「僕も今日は楽しかった。」
夜になって、気温が下がって、言葉が少なくなった。
彼の横を歩きながら、ときどきこの街への感想に相槌を打ったけど、頭がなんだか空っぽになっていた。
考えようとしても方向が見つからなくて、話したいことも浮かんでこなくて、強いお酒を飲んだみたいな感覚だった。
でも違う、強いお酒を飲んだことはないし、今も自分で動けないほど酔っているわけじゃない。
直樹「琴凑さん?」
琴凑「あ、呼びました?」
直樹「うん。なんて言えばいいかな……えっと。ひとつだけ、言わせてほしくて。」
琴凑「何ですか?」
少し間を置いて、彼は立ち止まり、私のほうを向いた。
直樹「僕は漂泊するのが好きな人間で、曖昧さと可能性に満ちたこの世界では、そうしていることでしか安心できないんだ。」
直樹「この旅の間に色んな人に出会って、今確かに言えることがある。琴凑さん——あなたは特別だと思う。」
琴凑「…………」
直樹「こういう機会は二度とない。何か怖いもののせいで見送ってしまいたくない。一生に一度だから。」
琴凑「どういう……意味ですか?」
私が半歩引いたら、彼が一歩踏み出した。
体が熱くて、痺れているようでもあって、手を繋がれてもちゃんと実感が湧かなかった。
直樹「今こうして振り返ると——漂泊して、旅をして、バスと停留所を記録して、この街まで来たのは、全部あなたに出会うためだったんだと思う。」
琴凑「私のため、ですか?でも直樹さん、それはちょっと……。」
直樹「じゃあ、何が正しいんだろう。あなたにだってわからないんじゃないか。」
彼は手を私の肩に置いて、近すぎて目を合わせられなかった。
倒れてしまいそうで怖かった。それ以上に、次の言葉を間違えてしまうのが怖かった。
直樹「緊張してる?」
私は何も言わなかった。
直樹「ごめん、僕のせいだよ。困らせたかったわけじゃない。見て、僕も震えてる。心臓が飛び出しそうで。」
体が前に傾いて、自分でつまずいたみたいに彼の胸に倒れ込んで、数秒してから抱かれていることに気づいた。
彼が何か言っていた。聞こえていた。でも理解できなくて、返事もできなかった。
すべてが黙認されたみたいで、肩を掴まれて彼のままに任せて、また何か言って、少しずつ私の唇に近づいてきて。
私は……
おかしい。私、何してるんだろう。
シャーロット「何してるの?」
琴凑「…………」
その大きな声に飛び上がりそうになって、皮膚がすっと冷えた。直樹さんも固まった。
反対側から現れたその人が呆れたように大きくため息をついた。街灯の下ではなかったけど、誰だかわかった。
シャーロット「このあとどこかに行くつもり?」
琴凑「ち、違います。そういうんじゃなくて。」
シャーロット「そうでしょうね。」
頭がくらくらした。
きっとアルコールのせいじゃない。
自分でやらかした。自分を見失って、方向を失って、ぐるぐるして、うるさくて、ごちゃごちゃになった。
……まったくつまらない。

ある日の昼、アリスが教授に呼ばれて、私は一人でテラスで昼食をとった。
黒パンに、ソースをつけたフランクフルト、それから小さな一箱の野菜ジュース。
——植物繊維の味が強すぎる。
ストローをくわえながら手すりに寄りかかって、草のような味が舌から消えてからまた一口吸って、慣れてくるとちょっとやみつきになった気がした。
全部合法の原料だよね、とふと思った。
琴凑「ほうれん草、セロリ、ケール、ロメインレタス、キウイ、クエン酸、ビタミン……」
ふと視界の端に誰かの影がよぎって、野菜ジュースを持ったまま、シャーロットがあずまやの方へ歩いていくのが見えた。
昼食を手に持って、何かを探している様子で、しばらくしたら私のことに気づいたみたいで、つい手を振ってしまった。
うわ、恥ずかしい。
別の方向から別の女の子が駆け寄ってきて、二人で何か話してから、別の場所を指さして、そのまま一緒に行ってしまった。
うなだれてしばらく落ち込んでいたけど、どうせ誰にも見られていないのだからと気づいた瞬間、その落ち込みすら恥ずかしく思えた。
アリス「出たっ!あああ!おおおおお、来た来た来た!あああああ……イった!」
琴凑「……やめてよ。」
後ろから私を包み込むようにしたアリスが、喘ぎ声を上げながら腰で私のお尻を激しく押しつけてきた。
幼稚すぎて少し怒鳴りたくなったけど、なんとか堪えた。
アリス「怒った?ごめんって。さっきの先生がずっと喋り続けるし、ちょっとでもスマホ見たら怒られるし、もう本当に無理。」
琴凑「本当にのん気だよね。卒業のこと?」
アリス「あなたが心配してくれるから嬉しい、大好き、結婚しよ。」
琴凑「もういい、まず離れて。留年したら就職にも影響するんだよ、それに。」
アリス「関係ないって、最悪あたしたち二人で百合映画撮ればいいじゃん、すごく需要あるよ!」
琴凑「殴るよ!」
乱されたスカートを直して高脚椅子に戻ったら、アリスが「やりすぎた、ごめん」と言って冗談を締めくくった。
彼女がお昼を食べている間、ぼんやり宙を見ていた。野菜ジュースを飲み干して、ストローが空気を吸い込んでゴポゴポ鳴った。
アリス「何かあった?なんかちょっと元気なさそうだけど。」
琴凑「え?そう見える?」
アリスが頷いた。食べながらも止まらない。
琴凑「うーん……うまく言えないんだけど、なんかもやもやしてて。」
アリス「もやもや?どんな形容詞それ?」
琴凑「なんか、胸の中でイモムシがにょろにょろ這い回ってる感じ。」
アリス「最悪じゃん。」
アリス「ていうか、告白された?」
琴凑「……誰から聞いたの。」
アリス「え、本当に!?誰に!?いつ!?」
琴凑「ご飯食べ終わってから。」
もやもやがさらに増した。本当に嫌な感じ。
隠しておくつもりはないけど、自分の口から話すのはやっぱり慣れない。
かなり省いて、すぐに伝わりそうなところだけ話した。ただ直樹さんの最後の言葉は、わりとそのまま繰り返した。
アリスはおいしそうに聞いていた。食べながらかもしれない。口は挟まず、ただ頷き続けた。
なぜか急に人生が空虚に思えてきた。
アリス「ごちそうさま。」
琴凑「ごちそうさまじゃなくておなかいっぱい、でしょ。」
アリス「まず、これは絶対告白で、しかも計画的なやつ。次に、きっぱり断ればいいじゃん。」
琴凑「それってどうなんだろう。」
アリス「何?浮気するつもり?」
琴凑「……真剣に悩んでるんだけど。」
アリス「もしかして、ときめいた?顔いい?お金持ち?」
琴凑「どっちでもない。」
少し声を大きくしたら、アリスはやっと私が恋愛相談をしたいわけじゃないと気づいたようだった。
アリス「じゃあ、どう思ってるか言ってみて。」
琴凑「正直、別に嫌いじゃないし、悪い人だとも思わない。でも、絶対どこかに問題があるはずで。」
アリス「私に謎解きか占いでもしろってこと?」
琴凑「……誰かに好かれるなんてことを、私は想定していなかった。告白されるなんてことも考えたことなかった。」
アリス「はあ?何言ってんの?あなたって普通にモテるじゃん。急にそういうこと言うの、慰めてほしいの?ずうずうしい。」
琴凑「そうじゃなくて、本当にそう思ってるって。それに自分がモテるとも思ってないし。」
琴凑「そういうことが起きたとして、何が理由なのかが自分にはわからなくて……」
アリス「今まさにそういう状況じゃん。琴凑ってそんなに自己評価低いの?」
私は迷わず否定した。それだけはすぐに言えた。
この言葉だけは、自分に使われたくない。
琴凑「あと、誰かを好きになるって、すごく恥ずかしいことだと思う。」
アリス「本当に矛盾してる……。」
琴凑「だから自己評価が低いって言われるより、高いって言われたほうがまだ受け入れられる。」
アリス「だったらもう答え出てるじゃん。相手を傷つけないようにどう断るか悩んでるんでしょ。」
琴凑「まあそうかな。負い目みたいなのはあるけど、あなたの言う通り、はっきり断ったほうがいいよね。」
アリス「ねえ琴凑、さっき言った誰かを好きになるのは恥ずかしいことって、あたしも含まれてる?」
琴凑「誰か一人に向けた話じゃないよ。たぶん私、誰かを好きになるっていう気持ち自体が、もうなくなってるんだと思う。」
アリス「何かきっかけがあったの?」
琴凑「覚えてない。それに、なんで必ず理由がないといけないの?別に普通のことじゃない。」
アリス「はあ、もう終わった。百合映画の計画が崩れた。」
琴凑「…………」
#3 - 2026-4-17 22:59
(希望治安官大教育家屠魔勇者阴阳师拱火孤儿消停点 ...)
总文本量破90万了,おめでたい、おめでたい。
故事的发展已经来到了难以用时间跨度来描述的程度,这部分也是最新的一部分,切换了视角,耍了一些诡计,我自认为应该是很有趣的尝试,不过如果不联系大量的前文和人物也很难感受到这部分的违和。为了防止一定程度上的剧透,故此加上mask,但如果只是纯粹当文字或片段来阅读就随便了,也说不定等到游戏完成时差不多都忘了,所以也不存在所谓的“剧透”。

        在回到住所之前,有人先在楼下等候。
琴凑        “那个。上次忘了什么东西吗?直树先生。”
直树        “不,非要说的话,忘了向你要联系方式。”
琴凑        “这个嘛……”
直树        “我没有其它意思,呃,这个,我偶然拿到的,如果有兴趣要不要一起去?”
        他走过来把一张音乐会的票递给我。
直树        “时间是这周周末,诶,不方便联系的话,可以在音乐会附近的车站碰面,上面有写地址。”
        他迟疑了一会儿后向我点头道别。
        奇怪的人。正常来说会为了送一张票跑来别人家楼下?
        票上的地址离我这……不,完全没去过的地方,简单查了下要换乘,大概六、七站。
        参演的音乐人都没听说过,不过看介绍也不是没有一点兴趣。
        比起这个,更让我在意的是直树先生来找我这件事。
        ……我肯定没法问出你是不是对我有好感这种问题,甚至连怀疑是否有这种可能都让我感到羞愧。
        惭愧?
        总之,我既不想成为迟钝的人,也不想成为自恋的人。
        然而等到了周末那天,我却意外得烦恼起该穿什么出门。
        今天天气很不错,我也没有特别的安排,其实直到昨天我还没有赴约的实感,今天就觉得爽约很不对。
        唔,之前翘课买的那件连衣裙简直像在为这种情况而准备一样。
        我不由得这么想,于是在镜子前连续换了三套衣服,思来想去也无法做出判断。
        不对,是完全丧失判断力了。什么适合日常,日常的标准是什么,去听音乐会的性质是什么,会不会太夸张……
        我蹲在镜子前把脸埋在交叉的手臂后面,故意拖延了好一会儿,最后像在拆定时炸弹那样随机挑选了红黄蓝任意一根线。
        后悔也没用了,已经出门了,就算爆炸也无所谓了,已经没什么好担心的了。
直树        “…………”
        刚下车站,我还没做好心理准备就和坐在长椅上的直树先生对上视线。
直树        “……诶,谢谢。”
琴凑        “为什么第一句是这个?”
直树        “我也不知道,大概是谢谢你能来,还有就是,这身很合适,感觉和平时不太一样。”
琴凑        “是吗?”
直树        “很无趣吧?我不太会说夸奖的话,但我真心觉得很适合你。”
琴凑        “谢谢。只要不觉得奇怪就好。”
直树        “完全不会!”
        唉,可是这么夸张的反应反而让我有点后悔,甚至因为不知道怎么接话题感到很尴尬。
直树        “我看看,现在还有些时间,要去哪里逛逛吗?还是直接进去等?”
琴凑        “直接进去吧。”
直树        “好,对了,你吃过午饭了没?”
琴凑        “吃过了,你呢?”
直树        “……嗯,也吃过了。”
        唔,不是吧,来这么早难道是想和我一起吃午饭吗?
        我默默地摇摇头赶紧推翻了这种假设。
        音乐厅里几乎看不到其他人,我们坐在彼此的领座,一时不知道该聊什么,也不知道该做什么。
        于是我把注意力集中在那张票根上,仔细研读上面的宣传语和介绍。
        西尾……诶,好像才比我大几岁的样子。咕……唔,糟了。
直树        “怎么了?”
琴凑        “不,没什么。”
直树        “不舒服吗?”
琴凑        “……只是耳鸣了下,偶尔会有的事。”
直树        “这样啊。”
琴凑        “直树先生经常来听音乐会吗?”
直树        “不,我其实并不是很懂音乐,上次听你说过后,我觉得你可能会感兴趣。”
琴凑        “所以特地买了两张票?”
直树        “没那回事,这真的是别人送给我的,然后刚好想到了你。”
琴凑        “那可不好说……”
        我以半开玩笑的口吻回应,见他不再担心我,所以我也放心了。
        和陌生人单独相处果然还是有点尴尬,尤其在无事可做的时候。
        我希望不会给他带来太大压力,便尽可能表现得不那么无聊,可我又不想凭空找话题……
        看来想要平衡这种氛围的难度比预想中大得多。
        等到演出正式开始就好多了,我们都在专注地欣赏演奏,不需要交流也不必交流。
        ……困意涌来。
        几度想闭上眼睛。
        但我还是坚持住了,因为那对直树先生很不礼貌。
        当然,我不讨厌这场音乐会,要说喜欢的话,只能算来了不亏。
        演奏的水平无可挑剔,是我需要磨练至少十年才有可能达到的高度。
        而且风格多样,品味也很独特,但在音乐性上却不合我的口味。
        比如说眼花撩人的炫技,还有节奏和轻重音上的把控,都不是他这个年龄段能轻易做到万无一失的程度。
        然而正是这种视觉冲击上的大饱眼福反而让我想闭上眼去过滤噪声。
        总而言之,看困了,但不影响听。
直树        “……感觉怎么样?是不是有点长?”
琴凑        “在个人音乐会里偏短吧,一般按照标准曲目量会安排两小时,包括中场休息,这次只有一小时。”
直树        “嗯,有点抱歉,怪我没有做好功课。”
琴凑        “这没什么,我猜大概会是小型个人音乐会,所以在预料之中,而且,我觉得很不错。”
直树        “嗯,嗯嗯,那就好。”
        他一边点点头一边按捺不住笑容。
        我们在音乐厅外漫无目的地散步,本应该去车站的,结果像被互相制约了一样哪也没去成。
直树        “要不要去看电影?就当作是我的赔罪。”
琴凑        “……都说了这没什么可道歉的。算了,反正接下来也没什么打算,附近有电影院吗?”
直树        “有的,我记得有。”
        他掏出手机查了下,然后指了个方向继续说。
直树        “现在过去刚好有几部不错的电影能赶上场次,走吗?”
琴凑        “这也是你计划的一部分?”
直树        “呃,讨厌吗?”
琴凑        “怎么说呢,这次电影票让我出吧,这样就不讨厌了。”
        说实话,我认为看电影应该是一件很私人的事情,不管是选片还是观看环境都是如此。
        打个不恰当的比方,在电影院里和其他不认识的一起看电影,在我看来就像去公共浴室。
        可能大部分女性都不会在意,可我会,甚至从来都不会主动去。
        而且电影院放映的片子很有限,一旦开始播放就不能暂停,即便我不经常暂停,却也不想失去这个权力。
直树        “再往后的话要多等半小时,有感兴趣的片子吗?”
琴凑        “……嗯,直树先生呢?”
直树        “我只会看评分,说不定对你来说可能会很无聊。”
琴凑        “我对小众爱好也没有那么执着。”
        似乎被先入为主地当成了某一类很怪僻的人,但解释起来也好麻烦。
        我对比了下上线电影的名字和海报,这个时候才意识到电影宣传原来是用在这种时刻。
琴凑        “那就这部好了。”
直树        “动画电影吗?嗯,是来自家乡的动画呢,据说这部在北美的票房还不错。”
琴凑        “直树先生难道也经常看动画吗?”
直树        “每个季度会追一些,有时觉得很不错的片段会剪辑成视频。想不到琴凑小姐也是动画爱好者呀。”
琴凑        “呃,不……”
        其实是突然想到爱丽丝说她看过四千部日本动画才临时起意的。
        不过,我也确实会看动画,和传统的动画爱好者不同的是,我不会刻意强调动画与影视的区别。
        因为动画也分二维和三维,如今真人影视剧中采用的三维特效也越来越多,传统二维动画也与时俱进地融入了新的技术。
        ……唔,有点讨厌和别人一起去听音乐、看电影的自己了。
        如果是一个人的话,肯定不会想这些。
        买了一桶爆米花和两杯可乐,进场,人数有点少,但依然没法沉浸下来。
琴凑        “…………”
        到头来只是一部普通的作品。
        并不是说普通不好,从总量上来说能做到普通就不是大概率事件,更何况能在电影院遇上喜欢的作品更是宛如奇迹的概率。
        放映厅的灯光亮起,人们陆续离席,荧幕上放着片尾名单,直树先生似乎没有马上离开的意思。
        于是我也静静地听着片尾曲,然后目送一排排陌生的名字由下至上掠过。
        分镜、原画……第二原画,春野由衣,嗯?应该不是认识的人吧。
直树        “呼,走吧。”
        我点点头。
直树        “啊——最后那段长镜头真的很感动,不愧是井上,无论是写实系的动作表演还是光影都太令人印象深刻了。”
        总有人是幸运的,能遇上满意的作品那就是好事。
直树        “等到之后出资源了我想再看一遍,琴凑小姐呢?好像感觉一般般?”
琴凑        “我对动画了解的不多,所以说不出什么有价值的评价。”
直树        “是吗?我觉得琴凑小姐是很挑剔的人,那有喜欢的动画作品吗?比如说宫崎骏的?”
琴凑        “不,我……不怎么喜欢他,虽然看过一些他的作品,但实在谈不上喜欢。”
直树        “能具体和我说说吗?我还蛮有兴趣的,什么都行,我想知道你的看法。”
        我深吸了口气,有那么点后悔接上这个话题,但事已至此不如放开了说才好。
琴凑        “……我的看法在大部分人眼里肯定不值一提,那如果借用押井守的话来说,宫崎骏是二流导演,只会做给小孩子看的绘本。”
直树        “哈哈哈哈哈哈。”
琴凑        “唔。”
直树        “不是,抱歉,哈哈,我没想到你会借押井守来评价,抱歉,真的没别的意思,你继续说。”
琴凑        “评价伟大的人很不容易的呢,这也是我不喜欢他的一个原因。”
琴凑        “不过更主要的是对他的作品无法共情。幼稚,虚伪,肤浅,还有自恋,这些姑且当作是我对他的偏见。”
琴凑        “如果仅从动画师的角度,这些偏见的词都会被包装得很高级,所以我觉得他并不适合当导演,更不适合创作。”
直树        “嗯……这也是通过某个伟大的人之口的评价?比如说富野和北野武?”
琴凑        “直树先生果然知道啊。可我也不是单纯仗着伟大的人的观点才这么说。”
琴凑        “因为抛去世人的评价,是恰好有一部分人的观点和我相似。即便不是针对宫崎骏,我也比较讨厌那种天真的乐观主义。”
直树        “你认为他是乐观主义吗?”
琴凑        “呃,这个嘛,也可能是完美主义?浪漫主义?但其实那类的作品如果能打动我的话我也不会讨厌。”
琴凑        “所以准确来说是愚昧主义,抛弃了一切基于现实的逻辑性,舍弃了人性的复杂性,排斥世界的自洽性和矛盾性。”
琴凑        “这样的作品只会服务于不谙世事的小孩和不善于思考的大人。我很难对这样的作品抱有好感。”
直树        “原来如此。那琴凑小姐是那种非常现实主义的人吗?”
琴凑        “人类的生活方式不会是简单的推理过程,在不同的议题上持有左右派观点的人不也总会有重合吗?”
琴凑        “诶,等一下,非要说的话,我在现实中大多数会更偏向现实,在虚构的作品里可能会更看重体验本身。”
琴凑        “啊……”
直树        “怎么了?忘了带东西?”
琴凑        “没,一不小心自说自话了。不好意思。”
        我渐渐放慢脚步,突然分不清车站在哪个方向,仿佛来时的街道被人偷偷换过。
        直树先生配合我的节奏边走边说,似乎没察觉到我的顾虑。
直树        “我也经常这样,好像做了什么奇怪的事一样。可如果什么想法都没有,我觉得那样才糟糕。”
直树        “偏见,偏好,偏执,都是人类独有的特性,能从另一个人身上听到这些,我感到很幸运。”
琴凑        “噢……”
        幸运这个词是用在这里的吗?
直树        “稍不注意,已经到这个时间了呀,要一起吃晚饭吗?”
琴凑        “计划的一部分?”
直树        “刚好知道有一家很好吃的餐厅,而且我也想继续听你说。”
        我犹豫了片刻,其实心里早已有了答案。
        我不讨厌和直树先生说话,他之前也向我自说自话了很多关于他的偏见、偏好和偏执。
        尽管话题各不相同,但无论是作为倾听的一方还是诉说的一方,我想我都有很好扮演对应的角色。
琴凑        “……就是说,吕利在一次为路易十四的康复举行乐团演奏的时候,一激动把指挥棒砸到自己的大脚趾。”
琴凑        “因为那时候的医疗水平有限,医生建议他截肢,可他执意不肯,结果在两个月后因为败血症去世了。”
直树        “那之后指挥棒就从厚重的大木棒改成了现在的那种小木棒吗?”
琴凑        “可以这么说,不过实际上指挥家们也做过很多尝试,比如用卷纸或者小提琴弓……”
直树        “……真有意思,我还是第一次知道。”
琴凑        “是后世人们更青睐于将人物神圣化的滤镜,实际上贝多芬的自傲和自尊让他无法忍受以残疾的身体活下去。”
琴凑        “甚至在遗书中坦白过自己无法向他人解释自己听不见,想要自杀,想要得到神的指引。”
琴凑        “他对音乐家的身份认同比吕利有过之无不及,但不一样的是这种极度的骄傲和不甘心也让他战胜了恐惧。”
琴凑        “履行合同,赚钱,还有成为英雄的觉悟,他的自命不凡差点杀死他,同时也拯救了他。”
琴凑        “对了,他年轻的时候非常崇拜拿破仑,还为他写过交响曲,后来得知拿破仑为自己加冕时又气得撕掉谱子。”
琴凑        “或许他对英雄主义一直有某种执念,然后在不同时期影响着他的人生和音乐风格。”
直树        “……要喝点酒吗?”
琴凑        “呃,我不太会喝。”
        摇晃的琥珀色酒杯,宛如液态的水晶。
        不知道是什么原理,酒的底部明亮得令人着迷,仿佛藏着宝物……啊,想起来了,是叫透镜效应。
直树        “这个是白葡萄酒,度数不算很高。”
琴凑        “那,稍微尝一下。”
直树        “……没错,当时在法国城市内出现的主要交通工具是私人马车,直到博德里……你知道三个火枪手吧?”
琴凑        “大仲马的那本?”
直树        “对,里面有一句著名的台词,我为人人,人人为我。而博德里正是在这本书出版之前,将这一理念命名为公交车。”
直树        “契机是他在南特市开启一项大众运输服务,第一批车辆停靠在一个店铺前,招牌上就写着这段标语。”
琴凑        “没听懂,这和公交车的命名有什么直接联系吗?”
直树        “因为在拉丁语里的意思就是一切为所有人,因为是bus嘛。”
琴凑        “嗯……是这样吗?直树先生还懂拉丁语?”
        他红着脸一声不吭,随后喝了一口酒。
直树        “我查查,我记得是Om什么……Omnibus,诶,这个发音和英语是一样的吗?”
琴凑        “你试试看,翻译软件有语音功能吧?”
???        “Omnibus。”
直树        “啊,还真不一样。”
琴凑        “哈哈哈……”
直树        “哈哈哈哈哈,Omnibus,学会了,哈哈哈哈……”
琴凑        “哈哈哈哈,笑死我了。”
???        “Unus pro omnibus, omnes pro uno。”
直树        “最早出自十七世纪的波西米亚新教起义,法语是……”
???        “Un pour tous, tous pour un。”
琴凑        “你等等……不行了,哈哈哈,先让我笑完这段。”
直树        “还、好吧?只是一般好笑的程度啦。”
        结果笑到打嗝。
        事后我也觉得没那么好笑,甚至为自己的失态感到羞愧。
        上次忍不住笑出声还是因为空腹不能喝牛奶那个笑话,现在想起来似乎也不好笑,难道我的笑点很奇怪吗?
直树        “没事吧?有哪里不舒服吗?”
琴凑        “没什么,不好意思,让你买单了。”
直树        “小事,毕竟是我硬邀你来吃饭的。”
        我在门口等他出来后,想着差不多该道别了,而且今天说了很多话,已经不是有点累的程度了。
直树        “我送你回去吧,走这边,小心台阶。”
琴凑        “唔,我等会儿查一下就知道路的,现在也挺晚了。”
直树        “可是你脸很红,至少让我送你到车站吧。”
        我下意识地捂着脸,可能手也是热的,所以感觉不是很烫。
        今天没有喝很多,但我对自己的酒量并不自信,就连自己现在是否醉醺醺的都搞不清楚。
琴凑        “嗯,谢谢你了,直树先生。”
直树        “我今天也很开心。”
        天黑了,气温降了,话变少了。
        我走在他的身旁偶尔会回应几句他对这座城市的评价,但大脑好像放空了一般。
        找不到能思考的方向,没有能主动提起的话题,感觉像喝了很烈的酒……
        不对,我没有喝过很烈的酒,现在也没有醉到不能自理。
直树        “琴凑小姐?”
琴凑        “呃,你叫我?”
直树        “嗯,要怎么说好呢,嗯……只有一件事,我只想跟你说。”
琴凑        “什么?”
        他稍作停顿,随后停下脚步面对我。
直树        “我是个喜欢随处漂泊的人,因为在这个充满了模糊性和可能性的世界里,只有这样做才能让我安心。”
直树        “在这段漂泊的时间里我遇到过的许多人,现在我可以确认一点。琴凑小姐……我觉得你很特别。”
琴凑        “…………”
直树        “这种机会没有第二次了,我不想因为某种担惊受怕的情绪而错过,因为这是一生仅有一次的机会。”
琴凑        “意思是?”
        我后退半步,他上前一步。
        身体在发热,也许在发麻?即使手被牵着也没有实感。
直树        “现在看来,我会漂泊,会旅行,会记录公交车和车站,会来到这座城市,全都是为了遇见你。”
琴凑        “为了我吗?可是,直树先生,这不太对。”
直树        “不,那到底什么才是对的?你也不确定,不是吗?”
        他抬起手放在我的肩膀上,我几乎感觉不到他的重量和触感,由于距离过近都不敢直视他。
        我害怕自己会跌倒,更害怕接下来说错什么话。
直树        “你在紧张吗?”
        我没有说话。
直树        “抱歉,是我不好,我没有想让你难堪的意思,你看,我也在发抖,心脏像要跳出来似的。”
        身体前倾,我像被自己绊倒一般扑在他的胸前,再过几秒才意识到自己正在被抱着。
        他在说什么,我听得清,却没办法理解,更没办法回应。
        一切就好像被默许了,我被握住肩膀任由他控制,他又说了什么,然后一点点靠近我的嘴唇。
        我……
        奇怪,我在做什么?
???        “你在做什么?”
琴凑        “…………”
        我被那一声响亮的质问吓到,皮肤迅速冷却,直树先生也愣住了。
        站在另一侧的那个人以很夸张的方式叹了口气,尽管没有站在路灯下,我也知道她是谁。
夏洛特        “接下来打算去开房吗?”
琴凑        “不,不是那样的。”
夏洛特        “我想也是。”
        头晕。
        大概不是因为酒精的缘故。
        是我自己搞砸了,迷失了自己,找不到方向标,害自己晕头转向,最后变得嘈杂又混乱。
        ……真是无聊透了。
        某一天的中午,爱丽丝被讲师叫走,我一个人在露台享用午饭。
        一片黑麦面包加上蘸了酱的法兰克福香肠,还有一小盒蔬菜汁。
        ——植物纤维的味道好重。
        我叼着吸管靠在石栏杆上,等到草本味从舌头上褪去后再吸一口,适应了一会儿感觉有点上瘾。
        应该都是合法原料吧,我不由心想。
琴凑        “噢,菠菜、芹菜、甘蓝、罗马生菜、奇异果、柠檬酸和维生素……“
        突然,有一个身影从余光闪过,我把蔬菜汁挪开,看到夏洛特正往凉亭走去。
        她拎着午饭,似乎在找什么,没过多久好像注意到了我,于是我挥挥手。
        呜哇,好丢人。
        另一个女孩从她目视的方向跑来,两个人说了些什么,接着指向另一个地方,再然后便一起离开了。
        我垂下头消沉了一会儿,一想到反正没被谁看见,又会觉得连消沉这种情绪都很丢人。
爱丽丝        “诶嘿!啊啊!噢噢噢!要来了要来了!啊啊啊啊啊……射了!”
琴凑        “……别闹了。”
        从身后包围我的爱丽丝一边发出娇喘一边用她的胯部猛烈地撞击我的屁股。
        幼稚得让我有点想骂她,但终究忍住了。
爱丽丝        “生气了?对不起嘛,都怪那个讲师一直说个没完,稍微看下手机都要被训,唉,真受不了。”
琴凑        “你还真是无忧无虑呢,是因为毕业的事吗?”
爱丽丝        “你好关心我,我好喜欢你,我们结婚吧。”
琴凑        “少来了,如果延毕的话会影响到将来找工作的,还有,能不能先让开。”
爱丽丝        “这有什么关系,大不了我们一起拍百合片,非常有市场的哟!”
琴凑        “揍你哟!”
        我整理好被她蹭乱了的裙摆坐回高脚椅上,而她也以“对不起,我太得意忘形了”结束了玩笑。
        在她享用午饭的间隙里,我发了一会儿呆,一直到蔬菜汁喝完,吸管里发出空气倒灌的声音。
爱丽丝        “发生什么事了吗?你是不是有点不开心?”
琴凑        “诶?能看出来?”
        爱丽丝点头,同时也没停下吃东西。
琴凑        “嗯……我说不好,总觉得心里毛毛的。”
爱丽丝        “毛毛的?那是什么形容词?”
琴凑        “就好比毛毛虫在心里爬来爬去。”
爱丽丝        “那很糟糕。”
爱丽丝        “诶,顺便问一下,是被表白了吗?”
琴凑        “……你听谁说的。”
爱丽丝        “真的假的?被谁?什么时候?”
琴凑        “你先吃完。”
        毛毛的感觉更强烈,真不舒服。
        虽然我没有打算隐瞒,但这种事情由自己亲口说出来,果然很不习惯。
        我省流了很多过程,尽可能只提能让她瞬间理解的部分,不过对于直树先生最后的那段话倒是很完整地复述了一遍。
        爱丽丝津津有味地听着,也可能是吃着,不会打断,只会点头。
        不知为何突然觉得人生好没意义。
爱丽丝        “嗯,我听饱了。”
琴凑        “是吃饱了。”
爱丽丝        “首先,这肯定是表白,而且是有预谋的。其次,你直接拒绝就好了。”
琴凑        “这不好吧?”
爱丽丝        “怎么?你要出轨?”
琴凑        “……我可是很认真地在烦恼这件事。”
爱丽丝        “难不成,真的心动了?长得很帅吗?还是很有钱?”
琴凑        “都不是。”
        我稍微放大了点音量,她似乎意识到我并不是想商谈恋爱方面的问题。
爱丽丝        “那你说你是什么想法。”
琴凑        “说实话我觉得他没什么不好,也没有讨厌的感觉。但,肯定在哪里有什么问题。”
爱丽丝        “你的意思是要我来猜谜还是占卜?”
琴凑        “……我觉得不会有人喜欢我,对于被人表白这种事也不会去想。”
爱丽丝        “啊?你在说什么?你这家伙明明就很受欢迎的嘛,突然说这种话是要我安慰你吗?真不要脸啊。”
琴凑        “不是,我真这么认为,况且我没觉得自己很受欢迎。”
琴凑        “再说那种事情就算发生了,我也想不明白究竟是什么原因……”
爱丽丝        “那不就是现在的情况嘛。琴凑原来有这么自卑吗?”
        我摇摇头,唯独这一点我没有丝毫犹豫就否定了。
        因为若是要我自己来评价自己,我绝不希望是这个词。
琴凑        “另外我觉得,喜欢上别人是一件很耻辱的事。”
爱丽丝        “真矛盾啊……”
琴凑        “嗯,所以比起被说自卑,还是自大更让我能接受一些。”
爱丽丝        “那结果不是很明了了吗?你在烦恼怎么解释才不会伤害到他?”
琴凑        “可以这么说吧,有一种亏欠的感觉,但你说的对,直接拒绝会比较好。”
爱丽丝        “琴凑,你刚才说的喜欢上别人是一件很耻辱的事,也包括我吗?”
琴凑        “又不是针对谁,我想,我大概失去了名为喜欢上某个人的感情。”
爱丽丝        “因为经历了什么?”
琴凑        “没印象。而且为什么必须要有原因呢?这没什么不正常的。”
爱丽丝        “唉,完了,百合片的计划破灭了。”
琴凑        “…………”